第19章 押し寄せる過去
「ただいまー」
玄関の扉を開くとリビングで話し声が聞こえる。
誰か居る…?
視線を下にやると女性物の靴が並んでいる。
俺は急いでリビングへと入った。
雅紀「あ、翔。遅かったね」
絵里「お帰りなさい。お邪魔してます」
「た、だいま…」
テーブルでくつろぐ雅紀と洗い物をする絵里さんを見て俺は固まってしまった。
雅紀「ごめん翔。絵里が家に来たいって聞かなくてさ…しつこくて」
絵里「酷ーい。夕飯作ってあげたじゃない。パスタ美味しいって言ってくれたのに」
雅紀「お前が来たいってしつこいからだろ。美味しかったけどそれを引き合いに出したお前だし」
絵里「もー。あ、櫻井さんも食べます?作りますよ」
雅紀と楽しそうに話しながら絵里はこちらを向いた。
「いや…ちょっと食べたんで平気です…」
絵里「そう残念」
「すみませんせっかく作って頂いたのに…」
絵里「いいえ。勝手に上がってごめんなさい」
「いえそんな…」
雅紀の元カノだからか…。どうしよう、居心地が悪い…。
雅紀「俺シャワー浴びてくる。絵里もう帰れよ。翔とゆっくりしたいから」
絵里「なぁにぃもーう。お邪魔虫?」
雅紀「その通り。じゃあな」
絵里「酷ーい。またね」
憎まれ口を叩き合いながらも2人共笑顔だった。
雅紀はリビングを出て行き俺と絵里さんの2人きりになる。
「すみませんお構いも出来なくて」
絵里「いいのよこっちが無理矢理上がり込んだんだし。それに…ちょうど良かった。櫻井さんと話したかったから」
「………え?」
鞄を肩に掛けながら俺を見つめる絵里さんは…先程までとは違い冷たい表情になっていた。
絵里「私…貴方の事知ってるのよ。男娼のショウさん」
「………!!!」
俺は何も言えずに絵里さんを見つめ返す事しか出来なかった。