第19章 押し寄せる過去
ー翔sideー
かつて男娼をやっていたあの時代…。
俺の1番の上客だった男…。
赤岩晴敏。
週に3度は通い詰め、俺を指名していた。
会社を経営していて財力のある人。
その会社は…赤岩ホールディングス…。
あの娼館を辞める時…常連のお客さん達には挨拶をして辞めた。
けれど俺への執着心が異常に強かった彼には…何も言わずに辞めた。
オーナーも…分かってくれていた。
彼が…うちの店の近くに自分のチェーン店を建てようとしているのは…偶然なのか…それとも…。
「………まさかね…」
俺が千葉に居るなんて知る訳ない。
きっと…偶然だ。
脳内の赤岩さんの残像を振り払いながら…俺は開店の準備を急いだ。
開店まで後10分程の時間になった頃…カランと音を立てて店の扉が開く。
雅紀母「すみませんまだ開店前なんですが…」
数人の部下を引き連れながら店に入って来たその中年は…正に…俺が会いたくない人だった。
「………」
赤岩「こんにちは。開店準備中にすみません。私赤岩ホールディングスの社長をやっております赤岩晴敏と申します」
その声で厨房に居た雅紀とお義父さんが出て来る。
赤岩「これはこれは…皆さんお揃いで」
並んだ俺達と順番に握手をしていく赤岩さん。
「………」
俺の手を握ると…ぎゅっと強く握って来る。
恐る恐る顔を上げると…ギラついた瞳をたたえながら…ニヤリと微笑んだ。
俺は恐怖で足がすくんだまま…彼が帰るまでただその場に立ち尽くしていたのだった。