第19章 押し寄せる過去
ー雅紀sideー
雅紀父「雅紀。翔くん。ちょっといいか?」
翔「はい」
「どうしたの」
開店前。
朝の仕込みが一段落した所で父ちゃんに声を掛けられる。
雅紀父「話がある。座りなさい」
翔と顔を見合わせながら俺は父ちゃんと向かい合って座った。
雅紀父「これなんだが」
1枚のチラシをテーブルの上に置いた。
「これ…」
そのチラシには…近日オープン予定の中華料理のチェーン店の広告。
翔「このお店…今人気の…」
雅紀父「そうだ。関東で店舗を増やしてる店だ」
「この場所って…あの更地になってるとこ?うちの近くじゃないか!」
雅紀父「ああ」
「嘘…」
雅紀父「知ってると思うがこの店の売りは『安くて美味い』だ。母さんとこの間食べに行ってみたんだが…確かにかなかの味だった。それに安い。餃子が一皿200円」
「に、200!?」
雅紀父「ラーメンは安い物だと500円だった」
翔「ワンコイン…」
雅紀父「確実にうちがダメージを受ける事は間違いない」
「マジかよ…」
雅紀父「それともうひとつ…気になる事があってな」
父ちゃんが帽子を脱ぎながらため息を付いた。
「どうしたの」
雅紀父「このチェーン店な…いつも必ず地元の中華料理店の目と鼻の先の場所に建ててる。そしてその地元の中華料理店は…必ず半年以内に潰れてるんだ」
翔「嘘…」
「マジかよ…」
雅紀父「噂を耳にしたんだが…売り上げが下がるだけじゃなくて…そのチェーン店から嫌がらせを受けるらしい。『さっさと店畳め』とな。悪魔で噂なんだが…大元の会社が元々あまり良い噂を聞かないから気になってな…」
「何処の会社なの」
雅紀父「赤岩ホールディングスだ」
「赤岩ホールディングス…最近よく聞くね。色んな事業に手を出してる会社だろ?」
雅紀父「だから気になってな」
「うーん。翔はどう思う?しょ…翔?」
隣を見ると…翔は真っ青な顔をしてうつ向いていた。
「翔どうした?」
翔「あ、いや…な…何でも…」
しかしその腕は…ガタガタと震えていた。
「翔大丈夫?」
震えるその身体を俺は抱き締める事しか出来なかった…。