第10章 対面
松岡「相葉さん…相葉さん?」
「え?」
ふいに我に返り、俺は顔を上げた。
松岡「聞いてます?」
「あ、はい…すみません…」
松岡「………」
俺はふぅと息を吐き、書類にもう一度目を通す。
二度目の先方との打ち合わせ。
社内の会議で急遽来られなくなった太一先輩の代わりに俺が独りで松岡さんと打ち合わせする事になってしまった。
でも…連日の工事現場のバイトで疲れはピーク。
身体が悲鳴を上げ始めてるのが分かる。
でもやらなきゃいけない…。
今が正念場。
松岡「顔色悪いですよ?」
「あ、いや…すみません」
松岡「………相葉さん…」
「はい」
松岡「………昨日…仕事帰りに貴方をお見かけしまして」
「え?」
松岡「………工事現場で」
「………」
松岡「貴方の今日の体調の悪さ…それが原因なんですか?」
「………それは…」
うちの会社は副業やアルバイトは禁止だ。
取引先の人でも…バレるとまずい。
どう誤魔化そうか…俺は必死に考えた。
松岡「相葉さん勘違いしないで下さい」
「え?」
松岡「別に俺は貴方を攻めてるんじゃない。あんな夜中に工事現場だなんて…理由があるに違いない」
「………」
松岡「この間貴方を見てて思いました。貴方は将来きっと伸びる。ここだけの話…国分さんよりもね」
「………」
松岡「いいライバルになりそうな方を潰したりはしない。一緒にいい仕事が出来て高め合えればと思ってます。そう思ってる人が体調が優れなかったら心配になるでしょ」
「………松岡さん…」
松岡「ちょっと休みましょう」
松岡さんがコーヒーメーカーからコーヒーを入れ、俺に渡した。
「ありがとうございます…」
松岡「まだ時間はありますから」
自分の分のコーヒーを持ち、松岡さんは俺の隣に座った。
「………恋人の妹が…病気で…」
松岡「………」
「心臓が悪くて…海外で移植手術を受けなきゃならないんです…その費用の為に…工事現場で…」
松岡「そうなんですか…」
「はい…すみません、内密にしていただけると…助かります」
松岡「言いませんよ。そういう事情でしたら」
松岡が優しく俺の肩に触れた。