第9章 tragic love②
「ここ…」
松岡「………覚えてるか?」
「………忘れる訳…ないよ…」
最後に俺達が足を運んだのは…初めて出逢った日に入ったビジネスホテル。
あの頃よりもまた年期が入った様に感じる。
そして昌宏さんは…あの時と同じ部屋に…俺を連れて入った。
「わぁ…」
古いビジネスホテルの一部屋が…小綺麗な部屋に見える。
所々花が飾られ…綺麗だった。
そして真ん中にある小さなテーブルに…1本の赤ワインとグラスが2つ…。
「………」
松岡「………約束してたもんな」
「昌宏さん…」
松岡「飲もう」
昌宏さんはベッドに腰掛け、ワインボトルを手にした。
「うん」
俺は向かいに座り、グラスにワインが注がれるのを静かに見つめた。
「わぁ…綺麗。色濃いんだね」
松岡「分かるか?」
「うん。飲まないけどお酒は沢山見てきたから」
松岡「そっか…」
「ありがと」
渡されたグラスを持ち、昌宏さんを見つめる。
松岡「改めて…翔。ハタチの誕生日…おめでとう」
「ありがとう」
チン、とグラスの音が響く。
「ん…」
松岡「どうだ?」
「美味しい…飲みやすい…でも…凄く深い…」
松岡「良かった。これ探すの大変だったんだよ。このワインならお前に合うと思って」
「嬉しい…」
俺はまた一口、ワインを口に運んだ。
その後は…お酒の話に花が咲いた。
別れる前と変わらない…カップルの様に…。
松岡「翔。これ」
突然、テーブルにリボンの着いた細長い箱を出される。
「え…」
松岡「誕生日プレゼント」
「………いいの?」
松岡「勿論」
包みを破り箱を開けると…綺麗なシルバーのネックレスが光っていた。
「………ありがとう…」
松岡「どういたしまして」
「あの…俺からもあるんだ…誕生日プレゼント…」
松岡「マジ?」
「うん。11日から大分遅れちゃったけど…昌宏さん。30歳おめでとう」
松岡「サンキュ!」
昌宏さんに包みを渡す。
松岡「良いネクタイだな…タイピンも?」
「うん」
松岡「………ラルフ・ローレン…」
「………うん…」
………きっと…昌宏さんも思い出したんだろう。
俺達の初めてのデート。
ラルフ・ローレンでの事を。