第2章 指名
ー雅紀sideー
「どうしよう…」
雑居ビルの前で俺は入口の扉をただ見つめていた。
ショウさんに逢いたい。
それだけでつい来てしまったけれど…あそこに行く勇気がない。
「これじゃストーカーじゃん…帰ろ…」
自分のアホさ加減に溜め息を付きながら、俺はビルを後にした。
水商売の人って…苦手だけどショウさんは何か違う。
何だろうあの人を惹き付ける魅力…。
太一先輩もああいう所が好きなのかな…。
大通りに面した信号に向かって歩くと、綺麗な顔立ちの男性が横断歩道で信号待ちをしていた。
「え…ショウさん?」
するとその人物が驚いて振り返る。
ショウ「あ…」
一瞬、バツの悪そうな顔をした後、あの日と同じ営業スマイルになった。
「こ、こんばんは」
ショウ「………相葉さん。こんばんは」
名前…覚えててくれた。
「今帰りですか?早いですね」
ショウ「あ、ええ…」
名前を覚えててくれた事が嬉しくて、俺はショウさんの隣に並んで立った。
「あ、あの…」
嬉しさのせいか、勢いに拍車が掛かる。
ショウ「はい?」
「よかったら…今から何処かに行きませんか?」
ショウ「は?」
ショウさんの表情が曇った。
もしかして…調子に乗りすぎた?
「あ、いや…お茶でもと思って…」
ショウ「………ごめんなさい」
バッサリと断られた。
ショウ「俺アフターはやらないんです。それに仕事とプライベートは分けてるんで…。でも店にはいつでも来て下さいね。待ってますから」
「あ…す、すみません…」
いつの間にか信号が赤に変わっていて。
ショウさんは早足でその場を去って行った。
「………俺の馬鹿…!」
本当俺はアホだ。
俺は一気に力が抜け、その場にへたり込んでしまった。