第9章 tragic love②
「いい加減にしろ」
尚もしつこい二宮に俺はぴしゃりと言い放つ。
二宮「何でですか」
「俺が教えるつもりないし…セックスも知らない奴に男娼の仕事が出来るかよ」
二宮「出来ますよ!」
「じゃあ聞くけど…どこをどうしたら男が喜ぶか分かるか?」
二宮「え…」
「フェラは?どうやれば感じる?どう喘いだら男が興奮する?お前に分かるか?」
二宮「………」
「男娼の仕事はそういうのなんだよ。相手の身体を愛してあげなきゃいけない。それには自分が愛された事がないと…出来ないよ」
二宮「………櫻井先輩は…あるんですか?」
「………あるよ。一度だけ」
二宮「………」
「俺も…3年前まで知らなかった。本当のセックスを。でも…ある人に教えてもらったんだ。愛される事の喜びを…3年間…」
俺の脳裏に…あの人の笑顔が浮かんだ。
和「………よく店に迎えに来てたあの人ですか?背の高いイケメンの…」
「うん」
和「………」
「彼が俺を…荒んだ生活から救ってくれた。愛を教えてくれたんだ。だから…感謝してるんだよ」
和「………」
「………だから二宮もさ…本当のセックスを知って…それでも俺と一緒に働きたいんだったらおいで。待ってるから」
和「………はい」
「よし」
ようやく頷く二宮の頭をぐりぐりと撫で、俺は立ち上がる。
「芯まで冷えそう。二宮もう戻ろ」
そう言って入口に手を掛けた時、向こうから一台の車がこちらに向かって走って来た。
「………え…」
それは…見覚えのある車。
3年間…よく助手席に乗っていた車。
和「櫻井先輩?」
「………二宮。先に戻ってて」
和「でも…」
「いいから」
和「………はい」
車を気にしながら二宮は店内へと戻って行った。
「………」
車が目の前で止まる。
エンジンが止まった後、ヘッドライトを付けたまま、運転席の扉が開く。
「………」
俺は黙ってその人を見つめた。
松岡「………翔」
「………昌宏さん…」