第14章 重ならない想い/武田信玄
「忍びになるのは諦めて、好いた男と幸せに暮らす方がきみには合っている」
「そんな……(私の幸せは信玄様にお仕えする事なのに)」
背中に触れる涙__
その涙を唇で拭ってやりたい
息も出来ないくらいに抱きしめたい
俺の腕の中で蕩けるくらいに甘やかせたい
しかし、それは叶わぬ夢
お互いに求め合っているのに交わることが出来ない想い__
それを断ち切るかのように信玄は、凛から離れ部屋を出ていく。
「……まいったな」
見上げれば夜空には無数の星
力強く輝く星もあれば
いまにも消え入りそうな星もある
「俺は消え入りそうな星だな……」
苦笑いを浮かべる信玄は、手のひらで目を隠してしまう。
「好いた女を幸せに出来ないとは……情けない」
自分自身の命の終わり__
信玄にはわかっていた。
病に侵されているこの身体
まだ、若くて美しい凛を自分の勝手な想いから抱く事はなど出来るわけもない。
想いが通じ合わなければ悲しむ事はない、そう信玄は考えていた。
自分が亡き後、凛が笑って暮らせるように
「……恋に溺れるには大人になりすぎたようだ」
分別がつく大人であるからこそ、信玄は自分の想いに蓋をする。
蓋をすればするほど凛を求めてしまうのがわかっているくせに
「星になっていつまでも凛を見守りたい__
そう考える事が出来るなら少しは楽になるのか?」
呟いた言葉は夜の闇へと消え去っていく
夜空に輝く星には届かない__
*Fin*