第21章 耳掃除/織田信長
梅雨の合間の晴れ渡ったある日
いつものように信長様は、文机に向かって書状に目を通している。
私はそんな信長様を視界の端に入れつつ、着物を仕立てていた。
あれ?
どうしたんだろう?
しきりに耳を気にしてるみたいなんだけど。
痒いのかな?
「信長様どうしたんですか?」
「何がだ?」
「耳……気になりますか?」
「いや……気にしてはいない」
「そうですか?」
なんか様子が変なんだけど、絶対に耳が痒いんだよね。
「耳掃除しましょうか?」
「いらん」
「でも……」
「必要はない」
なんでそんなにムキになって答えるのかな?
必要ないって言ってるそばから耳を構ってるし。
やっぱり気になっているんだよね?
「私、耳掃除得意ですから」
「必要ないと言っているだろう」
やっぱりおかしいよ。
いつもの信長様らしくない。
信長様ってもしかしたら
「耳掃除が怖いんですか?」
「はっ……戯けたことを」
「怖くないんですね?」
「当たり前だ」
「じゃあやりましょうよ、怖くないんなら」
「っ……」
信長様があんまりムキになって否定してくるから私もムキになってしまう。
「やっぱり怖いんですか?」
「……よかろう、貴様に耳掃除をさせてやる」
んふっ
信長様って可愛い
ちょっと挑発しただけなのに。
「では私の膝に頭を乗せてください」