第1章 再会、そして
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あれは冬も終わりに近付いた、二月の夜のある日。
一日の練習を終えた兄と、パソコンを通じてテレビ電話していたときのことだ。
「かおり、……あのさ」
やけに改まった声音だった。
普段のはつらつとした雰囲気ではなく、神妙な面持ちの兄。
一体何事かといぶかる私に兄は、光太郎は、ちょっと照れくさそうにこう言った。
「俺、……俺さ、親父の戸籍から抜けようと思う」
それは、そう、まさに言葉通りの意味で、父の戸籍を抜けるということは、要するに。
「もうね、お前の兄貴やめんの」
──うん。
頷くのが精一杯だった。
「これからは、夫になる」
──……うん。
ほとんど声にならなかった。
「かおり、俺と、結婚してくれる?」
──……っ……はい。
溢れだす涙が、止まらなくて。
その後、私たちは両親にすべてを打ち明けた。
父は目を丸くして驚いていたが決して怒りはしなかったし、母は「とっくに気付いてたわよ」と笑ってくれた。
私たちのことを傍観しつつ、若さゆえの暴走をしないように監視していたというのだから驚きだ。
母親とはかくも恐ろしき、である。