第1章 再会、そして
「そういえば遅いですね、木兎さん」
場の空気をガラリと変えたのは赤葦だった。かおりとの痴話喧嘩に疲れた彼は、若干げっそりとした面持ちで腕時計を確認する。
腕には耐水性のスポーツウォッチ。
赤葦がそれを普段から愛用しているのは、梟谷排球部のコーチとして教鞭をとっているからだ。
「もう来てもいい頃だけどな」
スマホのデジタルクロックに目を落とす黒尾は、現在保育士で、都内の保育園にて「てつろう先生」として働く日々を送っている。
──え、黒尾さんが保育士、ですか……その顔で……?
──え、それ犯罪とか起きませんか大丈夫ですか私は不安ですスゴく。
これは彼の仕事を聞いたときの赤葦とかおりの反応だが、このあと、彼らが黒尾からデコピンをくらったことは言うまでもない。
「ま、そのうち来るっしょ」
木葉は軽いノリで言って、残りのシャンディガフを飲み干した。
「どうしよう。ドキドキしてきた」
兄との再会を控えたかおりは、胸に両手を当てて俯いている。
今朝の便でニューヨークから渡日した二人。
木葉は最近独立して自身のブランドを立上げ、かおりはようやっと小劇場のオーディションに合格したところだ。
何もかもが変わった。
皆、オトナになった。
木兎光太郎がプロプレーヤーになってから、実に、十年の月日が経とうとしている今日。
ネオン灯る繁華街。東京新宿は歌舞伎町、とある雑居ビルの六階、とある個室居酒屋での一幕である。