第2章 01 へんなひと
「いえ、わたしが勿体無いのでやめておきます」
彼女はそうきっぱりと言った。
俺と夜久はしばらく固まった。というか、言葉の意味が理解出来なかった。
わたしが、勿体無い。
もっと噛み砕くと、”そんな部活入るまでもねぇ”ってことか?
理解して、心の中で頷く。なるほどそういう事か。確かにそうだよなこんな可愛い女子が男バレなんか入っても汚れた空気吸いに来るみたいなもんだよな。
「……」
いやいやいやいや!?
どういう事だよそれ!俺一応3年!主将!黒尾鉄朗様様なんだけど!
勧誘のため手に持っていたバレーボールを持って一歩後退してじいっと改めて問題発言をかました1年女子を見やる。
肩口でざくざくと無造作に切りそろえられた髪の色素は薄く、銀髪のようにも明るい茶髪のようにも見える。くせ毛なのかところどころはねた毛先が重力に逆らい、俺の髪と同じ原理かこれはとどうでもいい詮索をしてしまう。
肌は病気かと思うほど白く、目の下にはくっきりと薄黒いクマが刻まれている。それとは対照的に目の色は真っ赤。
兎のようなやつだ。
「……は?」
夜久がきょとんとした表情で間抜けた声を上げた。
「え?」
それにならってか彼女も首を少し傾けわたし何か変な事でも言いましたかとばかりに疑問の声を出す。
「あー……そうかあ」
俺はやっと冷静になった思考を頭に入れにっこりと口角を上げる。それはもう、今世紀最大の笑みで。
「それ聞いたらなんかもっと入ってほしくなっちゃったなぁ、俺」
本人がぱちぱち、と切れ長のくせに大きな目を瞬かせた。
「勿体無いくらいいい人柄なんだろ?なら是非うちに入ってほしいね。な、夜久」
「ぅえ?あぁ、んん……?」
夜久はまだ言葉を理解するのに必死らしく良く分からないといったように唸っている。
すると女子ははぁ、と小さく溜息を吐いた。めんどくせぇなという感情を決して隠さないスタイルだ。
「だから、わたしは入りたくないです。ほらわたし、オールラウンダーじゃないですか。だからもっと他の部に行って色々活躍しないと」
いや知らねぇよ。
お前がオールラウンダーだなんて初めて聞いたよ。つかお前に会ったの今日が初めてだわ。
心の中でツッコみながらこみ上げる笑いを抑える。
「あとわたし、人のために動くのきらいです。植民地時代のアフリカじゃあるまいし」
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