第1章 かなわない
一服を終え、部屋に戻る。
散乱した服とベッドに横たわる夕香を見て
急に虚しさがこみ上げてきた。
...帰ろう。
身支度を整えて、部屋を出る前に
夕香の顔を覗き込んだ。
...泣いてる。
多分だけど寝ながら泣いてる。
夢にアイツが出てきたんだろうか。
寝言でアイツの名前を呼んだだろうか。
...その場に居合わせなくてよかった。
そう思うと同時に酷く汚い感情が
また心の中に溜まっていく。
夢に見て、泣くほど焦がれる相手なら
早く想いを伝えてしまえばいいのに。
涙を見て、こんな苦しいのなら
幸せに近づけるようにこの手を離して
背中を押してあげればいいのに。
でも、夕香も僕も
それをすることができない。
このままなら傷つかずに済むから。