第2章 二日目
「だって全然振り向いてくれないし……もう100年もずっと好きなのにー」
「え……ひゃ、ひゃく……」
一瞬だけ笑みを強張らせるが、すぐに元の笑顔に戻り、慌てたように相手をなだめる。流石メデューサ、生きている年数も恋の年数も違う。って、感心してる場合じゃないっ。
「そんな100年も好きだった人をあっさり諦めちゃダメだと思いますよ! 僕なんかよりも、その好きな方の方が素敵だと思いますし……!」
「フィル君も素敵だよー」
「うっ、え、えっと……諦めちゃだめですよ!」
「むー、フィル君は彼女とかいないんでしょ?」
絡みつくような甘い言葉に、僕は言葉を詰まらせる。
最近入った新人ホストの子に目線で助けを求めるが、彼もどうしたらいいかわからず固まっているだけだ。
思わずホストとしての心構えを忘れて、逃げ出したくなりそうだが、通りすがった男性がささやいてきた言葉に身を引き締めた。必死に心を落ち着かせて、笑顔で何事もないように接する。
「いませんけど……僕は全ての女性の王子様ですから、その誓いを破るわけにはいきません」
「やだー、フィル君ったらぁ」
爽やかな笑顔とともに告げた言葉に、アンジェラさんもかなり気を良くしたらしく、それ以上そのことについて何も言わなかった。
内心ほっとするが、接客が終わったわけではなく、僕はまたグラスを口に付けて、気を引き締めた。