第2章 二日目
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ここは人間ではないもの、特に妖精がメインとして住んでいる妖精界のとある小さな町。大都市に比べれば小さい海辺の町だが、そこそこ観光地や海水浴場として有名だ。
そんな海が見える町の片隅にある小さなホストクラブに僕は勤務していた。
「やっほー、フィル君~! 会いに来たよ~」
「お久しぶりです、アンジェラさん」
常連のお客さんで、メデューサのアンジェラさんが手を振っている。その隣に座って、にっこりと笑うと、彼女は上機嫌な表情になった。
色の濃いサングラスの奥から見える、やや切れ長の目が嬉しそうに瞬いている。彼女の髪である無数の蛇たちがシューシューと妖しげな音を立てていた。
「今日の香水はいつも付けているやつと違うんですね、良い香りです」
笑顔でそう言うと、アンジェラさんは嬉しそうな顔をする。ツンと鼻にしみ込んでくる薔薇の香りだ。
「あら、わかった? この前あたしの好きな人が好きだって言ってた香水なのよ~。素敵でしょ?」
「えぇ」
頷くと、蛇たちが満足したようにシュルシュルと音を立てた。既に酒がまわってきているのか、アンジェラさんは頬を染めながらグラスを片手に持った。
先ほどから僕も彼女も相当な量を飲んでいるが、酔い始めた彼女とは違い、僕は笑顔をかけらも崩さない。
「でもなかなか伝えられなくてね」
「本当にお好きなんですね、その方のこと」
「当然じゃない。……でも、なんだか空しくって」
「空しい?」
思わず訊き返すと、アンジェラさんはグラスをガラス製のテーブルに置いた。
サングラスの奥の目が妖しげに光っているのを見て、笑顔のまま冷や汗をかく。