第1章 一日目
僕が振り向くと、相手の女の子はこれでもないぐらいに顔を真っ赤にして、目を怒りの炎で燃え上がらせている。
「てめっ……言わせとけば抜け抜けと……! なめてんじゃねーよ!」
「あ、危ない!」
相手の女の子がごてごてに飾ったカバンをミリィちゃんに向かって振り上げる。反射的に彼女の前に立ったのと同時に、ガン! と頭に衝撃が走った。って、カバンに何入ってるの!? 鈍器で殴られたかと思ったよ!
僕がうっと呻いたと同時に、地面にゴロンという音が響いた。そして顔に痛みが走る。
「え……は……?」
相手の女の子がぽかんとした表情で僕を見ていた。僕は彼女の姿を見上げながら、思考を停止させる。
多分、今の彼女には僕の頭が首から離れて地面に転がったように見えるんだろう。いやまあ、実際にそうなんだけれども。
周りの野次馬や女の子の取り巻きの子達も、僕をじっと凝視している。うん、これは……かなりやばいね。もっとしっかり首くっつけとけば良かった!
「フィルっ! 耳ふさいで!」
ミリィちゃんがキッと真面目な表情になって僕にそう言う。
耳ふさぐって! 僕の首と本体は今ばらばらなんだけど!
心の中で叫ぶが、そうも言っていられず、慌ててしゃがみこんで床に転がっている頭を拾って耳を塞ぐ。ミリィちゃんはそれを確認すると、呆気にとられている女の子達に向かって一言だけ発した。
「ゆめゆめ忘れるな――今見たことは幻よ。全て忘れなさい」
ミリィちゃんの口から発せられた言葉が波紋のように周りに広がっていく。
僕には直接聞こえなかったが、口の形を見ればよくわかる。周りの人々が一瞬にしてかたまり、その目がぼんやりとここではないところを見つめている。
「行くわよっ!」
ミリィちゃんが僕の腕を掴んで、走り出す。慌ててその後を追いながら、僕は大きなため息をついた。
本当に大変な事になっちゃった。オーナーにどう言い訳しよう……。