第4章 四日目
「フィルくーん! もうあたし駄目かも~!」
「え!?」
今晩もいつも通り笑顔で仕事をしていたとき、店にやってきたアンジェラさんが泣きそうな顔でソファーに突っ伏した。
新人の子も僕も呆気に取られてしまうが、ぼんやりとしているわけにもいかず慌てて彼女を起きあがらせる。
「どうしたんですか、アンジェラさん」
「あたし、1000年以上生きてきたけど、こんなにつらいの初めてかもしれない」
半泣きで言ったアンジェラさんの顔は、いつものような派手だけど華やかな顔ではなくて、しおしおと思わずこちらまでうるっとしてしまう表情だった。
……こんなこと言うと、ミリィちゃんに『涙もろすぎよっ』とか言われちゃうんだけどなぁ……。
「あたしもうダメ! こんな蛇女なんて好きになってくれないのよ、きっと!」
「蛇女って……そんなことありませんよ、アンジェラさん」
今にも泣きだしそう……って、もうすでにちょっと泣いちゃってるアンジェラさんを必死になだめているが、本当にどうしよう。ヘルプの子もおろおろしちゃってるし……。
「ほら、元気出してください。いつも明るくてハキハキしているアンジェラさんが素敵なんですから」
「うぅ、フィル君本当に優しいよ~」
アンジェラさんがグラスを持って、ソファーの背にぐったりと寄りかかる。
「昨日も遠くから見ることしかできなかったし……あたし、どうすればいいかわからないや」
「そ、そう言わずに。ほら、今日は何にします?」
「お酒飲む気分じゃない~」
それじゃあ、ここに来た意味が……と言いかけそうになり、僕はその言葉をのみこむ。
アンジェラさんは、いろいろと泣きそうな顔で言っていたが、ふと思いついたように表情を明るくした。そして、僕の手をがっしりと握ると、決意を込めた声で言った。
「彼と一緒にいたくて通ってるのに、これじゃ意味ないわっ! フィル君、手伝って!」
「えっ!?」