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ある一週間のこと

第3章 三日目




 ▼◇▲


シャワーを出て、ミリィちゃんが用意してくれた昼食を食べていると、ふと目の前に座る彼女が話しだした。


「ねぇ、どうしてあなたが働いている『ナイトメアクラブ』って『ナイトメア』っていうのかしら? だって『悪夢』って意味でしょ?」

「ジェイさんが言うには、『現実の悪い夢を忘れましょう』って言う意味らしいよ」

「?」


ミリィちゃんが不思議そうに首をかしげるけど、そういうことなんだろう。


「でも不思議よね。どうしてフィルはデュラハンなのにホストやってるのかしら?」

「ミリィちゃんが誘ったんだよ……」

「そうだったかしら? それにしても、女の子からの誘いを断れないぐらいへなへなしているくせに、仕事の時は笑顔で接客できちゃうのって凄いわよね。お酒も強いし」


反対側に首をかしげたミリィちゃんは、それ以上興味がないのか、食べ終わった食器を片づけ始める。その後ろ姿を見ていて、僕は本当に彼女に世話になりっぱなしだなぁと思った。いや……笑えないんだけどね。

ため息をつくと、キッチンからガチャン! と食器の割れる音がして、きゃっ、と可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。


「ミリィちゃん!?」


慌ててキッチンに向かうと、割れたお皿を足元に散らかしながら、ミリィちゃんが一点をじっと凝視していた。
その視線を追うと、そこにいたのは一匹の黒い虫。人間界でも結構有名な嫌われ者である楕円型の昆虫が、触角を揺らしながら壁に張り付いていた。こ、これは……。


「もうっ、早くやっつけないと!」


ミリィちゃんが殺虫剤を持って虫に噴きかけようとするが、僕はその手を掴む。


「待ってよ、可哀そう!」

「えぇ!?」


ミリィちゃんがぎょっとしたような表情をして目を丸くするが、僕は焦りながらその虫を外へと逃がそうとする。


「いくら小さくても生きているんだよっ」


ミリィちゃんは何か言いたげだけど、僕は虫を外へと逃がす。胸をなでおろしていると、ミリィちゃんが呆れたようなため息をついた。


「本当にフィルは甘いわね~」

「うっ……ひ、否定できないです……」

「まあ、それもあなたの良さだけれどね」


そう言ってミリィちゃんはふわりと笑った。




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