第10章 練習試合
「だから…その事はいいとして。」
花宮「嫌な思い出じゃねぇのか。」
「……?」
話の食い気味に口を開く花宮。
花宮「だから、あの体育館の思い出は嫌な出来事じゃなかったのかよ。」
少し不機嫌そうに思える声で問う。
「…嫌だよ。初めては好きな人が良かったし…。でも、もう過ぎちゃったからしょうがないじゃん。なんか、今更あのことをどうこうするつもりはないんだよね自分の中で」
一人でウンウンと頷きながら話す。
確かにそうだ、はたから見ればあれは、レイプ、不純異性交遊などの犯罪現場にしか見えなかっただろう
あの出来事に関しては桐皇の出来事が大きすぎて、薄れていたといえば事実。
でも何故か、すごく嫌にも思えない。良いと思えないけど。
「……はは、なんか難しいや話すの」
乾いた笑いをしながらさらに俯く。
何たって、この話をすること自体恥ずかしい。
過去がどんなことであれあまりにも露骨な感じがしすぎてどうもこうも恥ずかしくなる。
花宮「…そうか。」
パタンと本を閉じる。
そしてゆっくりと手を差し伸べ、頬に触れる。
「っ……」
この目。
あの時のベッドの上で見た、ロッカーで見た時と同じ目をしている。
深い闇の中にも何かを感じさせるような、何か表に出せない感情があるような、哀しくも美しい目。
「は……はなみ…や…?」
花宮「…っるせぇ…。…黙ってろ」
ゆっくり近づく顔。
やがて目の前まで来て視界が真っ暗になる。
花宮が片手で目を覆ったからだ。
頬まで伸びたもう一つの手は優しく愛でるようにゆっくりと顎まで移動し、少し上に顔を傾けた。
「…?はなみっ…っ…ん」
突然口元に柔らかいものが当たり話すことを遮られる。
名前を呼び問うことも出来ない。
目を覆われているため口にあっているものが何なのかも確認できないまま、数秒という短い時間が過ぎる。
やがてその柔らかいものは口から離れ視界も明るくなる。
目の前には少し熱を帯びた目をしてこちらを見ている花宮がいる。だがその目もいつも通りに切り替わり、
「…花宮……?」