第13章 月はピアノに誘われて
少し冷えた部屋で背中から伝わる
翔くんの体温が…香りが…腕が…
僕を包み込む。
「翔くん、あったかい」
「やっぱりさぁ、
さっき外に居すぎたんだよ。
智くんすっかり冷えてるよ?」
「じゃぁ、翔くん、
あっためてくれる?」
「俺ね、智くんの歌声、
すごく好きだけど…
それ以上に智くんの甘い声が
好きだな…」
気がつけば身体の向きが変わり、
至近距離に翔くんの顔がある。
耳許に唇を寄せる…。
「ねぇ、智くん…聞かせてくれる?」
低い声で囁く。
「ふふふ、どうしようかな?
翔くん次第?」
「ピアノよりは全然自信あるよ?」
にやりと微笑みをたたえ、
目は雄のそれに変わる。
僕の唇に落ちる翔くんの肉厚で
セクシーな唇。
さっきまでピアノを奏でていた指が
僕の身体のあちこちを這い回る。
その指が辿る場所が熱を帯びる。
指で…唇で…吐息で僕を狂わす。
「ああぁ…しょ…く…ん」
自らの声に含まれる甘さ。
「ねぇ…おねがい…もぅ…」
余裕なんてとっくになくなってる。
キミの指が…唇が…熱が…
僕を啼かす。
僕の指で…唇で…熱で…
キミを煽る。
二人の吐息が…声が…
特別な曲を奏でる。
月の綺麗な夜…。
月は何かを狂わすのかもしれない。
音の洩れない部屋が
吐息と甘い声に包まれる。
「しょぅくん…好き…大好き…」
「智…愛してる…」
二人で抱き合いながら
堕ちていく世界は…
果てしなく甘い。