第11章 シンデレラエクスプレス
自分の部屋を出て扉の前に立つ。
そのまましばし、逡巡する。
そんな僕の様子が分かったと
言わんばかりに中から声がかかる。
「智くんでしょ?入っていいよ」
なんでばれたんだろう?
そこまで言われて入らないわけにも
いかずなにもなかったそぶりで
ドアを開けた。
「智くん、どうかした?」
「ん?別に…。
ってか、なんで僕だってわかったの?」
「そりゃ…わかるよ、
智くんのことだもん」
なんでもないそぶりで答える翔くん。
「だって智くんだってわかるでしょ?」
なんでもないような顔で
しれっとのろけるなよ…。
もちろんわかるけど…。
「で、どうしたの?」
ってもう一度聞かれたら
答えないわけにもいかず…。
「あのさ…翔くんのスエット…
借りてっていい?」
「スエット?俺の?」
「うん」
「新品のないよ?」
「いつも翔くんが着てるのでいいの」
「ふーん」
そう言いながらクローゼットから
翔くんがよく着ているスエットを出し
僕に差し出してくれた。
「これでいい?」
受け取ったスエット。
同じ洗剤で洗濯しているはずなのに…
翔くんの香りがした。
「うん、ありがとう」
それだけ言って部屋を出ようとした。