第33章 80 inch
「もうちょっとしたらマネ、
迎えにくるから」
智くんが思ってもいない事を口にした。
「え?なんで?」
「だって疲れてるでしょ?
昨日…いっぱいしたし…」
最後は小声で顔を赤らめながら言う智くん。
あぁ…もぅ、完敗だよ…。
昨日、やけに情熱的だと思ったら…そう言う事?
ほんと…この人には敵わないよ。
でも負けっぱなしはイヤだから…。
顎に手を掛け、唇を奪う。
飲み込みきれない唾液が首筋を伝うほどに貪り続けた。
「翔くん?」
真っ赤な顔で俺を見るこの人はやっぱり可愛いとおもった。
「テレビ、見てて?
俺、頑張るから。
ちゃんと行きは寝て行くよ?
最高にイケめた状態で出るから…。
帰ってきたら…続き…しようね?」
そのタイミングで鳴ったインターフォン。
時間切れだ…。
「智くん…
今日って何の日か知ってる?」
「え?なに?なんかあったっけ?」
「【山の日】なんだって。
俺たちの日じゃん?
来年の今日は朝から晩まで
二人で過ごそうね?」
「来年の事、言うと鬼が笑うってよ?」
「いいじゃん、爆笑させときなよ?
行ってくるね?見ててね?」
「うん、いってらっしゃい…。
見てるから…。
無理しないで…楽しんできてね!」
智くんの目に光る涙は見ない振りをする。
「うん、行ってくる!」
外は夏の空が広がっている。
あの人みたいな青空を見て一つ深呼吸した。
大丈夫…いける!
マネの車に乗り込んで俺の夏の続きが始まった。
<END>