第32章 My sweetie
「ねえ…」
「ん?どうした?」
「ふふふ…なんでもない」
人の背中に凭れたままピコピコとゲームをしてるニノ。
いきなり話しかけて『なんでもない』って…なんだそれ?
でも…まぁ、いっか?
そのまま俺も捲ってた雑誌に目を落とす。
リビングにいるのは二人だけ。
テレビもラジオもついてない部屋にはニノのゲームの軽快な音楽だけが流れてる。
その音と、和が発するボタンの音をBGMにお気に入りの釣り情報誌を見るとはなしに見てたりする。
釣り…行きてぇなぁ…。
でも映画の撮影始まるしなぁ…。
ここは我慢だよなぁ。
大人になったじゃん、俺。
「ねぇ?」
また、背中から声がした。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
また、さっきと一緒。
でもこんな空気も悪くないと思ってしまう。
まったりと流れる時間。
普段、ものすごい勢いで流れていってしまう時間…。
気がつけば巻き込まれて溺れかける。
だからこそ、こんな時間がすごく大事に思えた。