第5章 地下鉄にて
地下鉄に入った2人は塔和シティの外へと繋がっている道を目指してホームを下りる。
電車は傾き、車両の中でも外でもオトナ達の骸が転がり、地下鉄も地上と同様に酷い有り様になっていた。
レールの真ん中を歩き、薄暗い地下鉄内に足音を響かせる。
砂利を踏む音と、枕木を踏む音と、金属を踏む音。
やけに不気味に反響した。
「……モノクマです」
カムクラが暁に注意を促す。
暁は緊張の面持ちで金属バットを構えた。
「3体いるな。まだ此方には気が付いていないようだが……」
「なるべく無駄な体力消費は避けましょう」
暁が無言で頷くのを確認すると、カムクラはモノクマたちに発見されないように瓦礫や車両の陰に隠れながら音を立てずに走った。
「さぁ、あなたも」
ある程度進んだ所で振り返り、暁についてくるよう合図する。
「行きたいのは山々だが……」
暁は小声でカムクラに呼び掛ける。
カムクラが絶妙なタイミングで進むのを真似しようと試みたのはいいが、辺りを見回すモノクマがすぐに自分の方へ振り返るのでなかなか走り出せずにいた。
「……しょうがないですね」
カムクラは溜め息を吐いて、足下の石を拾うとすぐに遠くへ投げた。
モノクマのその先にある壁に当たって、如何にも誰かが其処に居るかのような音を立てる。
すると、すっかり騙されたモノクマ達は音のした方に向かって突進した。
「今のうちに」
カムクラが暁を短く急き立てる。
背を向けているモノクマ達の様子を恐々と窺いながら暁がカムクラの元へと走った。
「ありがとう。大した気転だ」
なんとか渡りきった暁が冷や汗を浮かべながら礼を言う。
「立ち止まっている暇はありませんよ」
そう言うと、カムクラはすぐに先へと進んだ。
まだモノクマ達は壁の近くにいて、てんで外れた方向を見回し続けている。
暁はモノクマを警戒しながらも先程よりは楽な心地で通り抜けた。