第2章 優しい悪魔
母ちゃんきっと心配してる…
数時間前に通った道を、駆け足で引き返した。
時折吹き抜ける風の音が、あの男の喘ぎ声に思えて、思わず両手で耳を塞ぐ。
一度も振り返ることなく、無我夢中で走った。
家の近くに差し掛かった時、見覚えのある人影を見つけた。
父ちゃんだ…
父ちゃんの顔を見てホッとしたのか、また涙が溢れてきた。
「智、こんな時間までどこで何を…」
突然泣き出した俺に異変を感じたのか、父ちゃんは言葉を止め、小刻みに震える身体を抱き上げた。
父ちゃんに抱かれたまま家の玄関ドアを開くと、そこに母ちゃんが立っていた。
母ちゃんの顔がみるみる曇り、普段は見せたことのない涙が頬を伝った。
母ちゃんに手を引かれ、俺は風呂場に連れていかれた。