第2章 お暇つぶしにも
[なっ...ナヨナヨって...!ていうか目ェ!ボクの目に突き刺さるよぉそれぇッ]
罠罠...と長髪の男は震える。ふと思い出した。
その男の様子に、私はある嵐が起きた月夜の事を。
夜の、太陽が出ている間とは違って、今にも消えてしまいそうな弱々しい光に照らされた、私のお部屋のカーテンが、お化け屋敷の様にガタガタと暴れていた。ーーー嗚呼、耳鳴りが騒がしい。
この男、本当に鬱陶しい。
私は眉間に包丁を挟み込める程、皺を寄せて顰めた。男は体をすくめ、涙が溢れ出させている。
[そういえば、]
[アナタ名前何というの?]
その場で手をついて座り込んだ長髪の男の目を、しっかりと見て私は問う。先端が尖った道具を突きつけた場面を転換させずに。
[エッエッ...いっ今さらかいぃ!?おっもしかしてっボクに興味持ってくれたのかぃッ!?]
と、先程とは打って変わって頬を紅潮させる男をーーーー呆れた。興醒めしたショーを観せられているみたいね。
いつまでも、心の中ーー『モノローグ』で長髪の男と呼び続けるのは面倒臭いから問いかけただけよ。
[そんなに知りたいなら教えてあげようッ!ボクはAというんだ!]
と、演劇の様に身振り手振りを大きくして私に伝えるその男は、ニヤリ、と私を誘惑するように意地悪く嗤った。
[ふざけているの?エースって名前なんて...アナタ日本人でしょう?]
[ひどいナァッ!れっきとしたボクの名前だというのにッ!!]
幼児の様に両腕を動かし、駄々をこねる長髪ーーいや、Aに、私は苛々した。
最終的にこの男、肉体を滅茶苦茶に解体し、植物の肥やしにした方が好ましいかしら。今宵のライオンの餌にするにはなんて価値の無い男......
[....あ。]