第1章 その1
どうやら彼の構って構ってスイッチを入れてしまったようで
先ほどあんなに真剣に読んでいた本は
彼の傍へ無造作に放り出されている。
「…わぁ大変!すっごいしわ出来てるよ!伸ばさなきゃ!」
「うそー!マイコ伸ばしてー伸ばしてー!」
…もうこれからどうなるかわかってるけど、
わかってないフリで引っかかってあげるとする。
目をつむってご機嫌そうな渉の前にしゃがみ込み、
両手の親指を使って彼の眉間をぎゅーっと伸ばす。
「あぁーーのびるーーー」
「渉の眉間つるつるになーれーー」
…このセリフは我ながらアホみたいだ。
「……捕まえた!」
「わぁ!」
急に私の腕を掴み、引き寄せる渉。
そのままくるっと回されて、
あぐらをかいた脚の間に後ろ向きで座らされる。
「ふぅ…マイコを捕まえるのにも慣れてきたな」
「そうだね、捕獲名人だ」
「免許皆伝かな〜」
「名人、ご機嫌なところ悪いんだけど、私洗濯物干したいなぁ」
「うん?どうぞ?」
「……」
私はごく普通の体格なのだけれど、
体の大きな渉に後ろから抱え込まれると
全く身動きが取れなくなる。
「離してくれます?」
「いけるものなら行ってみなさい」