第26章 petrichor
治療を終えると、改めてお礼を言った。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ。このくらいいいんですよ」
牧師さんは救急箱を持って奥に引っ込んでいった。
「あの、本当になんてお礼を言ったらいいか…」
改めてじいさんたちにも頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いやいや…いいんだよ、本当に」
地味な格好をしたじいさんが答えると、ふたりのじいさんも頷いた。
「あれ…」
なんか…デジャブ感がすごいっていうか…
似てるんだよな…このじいさんたち…
ジュンってじいさんは、潤にそっくりだし。
もうひとりのじいさんは、智にそっくりだし。
で、地味なじいさんは…
「あっ…もしかして神田のレコード屋さん?」
「えっ?」
「俺、店の前まで行ったことあるんです。そん時、店の前で寝てたから…」
「あ、ああ…そうなんだね…」
レコード屋さんは、眼鏡の奥の目を細めた。
「…また遊びに来てよ…」
「ありがとうございます。今度友達と行きます」
「寝てても、叩き起こしていいからね」
「いや、そんな…」
牧師さんが戻ってきて、俺達に傘を貸してくれた。
「皆さんどうぞお気をつけて」