第19章 特別短編 あの日から…
あの不思議なじいさんたちを、俺達は忘れられないでいた。
それから何回か、あの家に行ってみたけどいつも不在で。
結局じいさんたちに会うことはなかった。
しばらく経ってからあの家に行ってみたら、そこは売りにだされていた。
智にそう話すと、凄く残念がってた。
「avidって…凄いバンドだったんだよ…」
後から調べたみたくて、智は会いたくてしょうがないみたいだった。
「なんかすっごい事件があって解散しちゃったバンドなんだけどさ…あのおじいさんたち、その生き残りだとしたら…」
「ん?なんだよ」
「…いや…わかんないけどさ…俺たち、凄くいいことしたのかもしれない」
「え?」
智はパソコンの画面を俺たちに見せてくれた。
「えっ…」
「な?俺達にそっくりだろ?」
そこには、俺と智と雅紀…そして翔とガオ…
「和也がいねえな…」
「ね?もしかしたら居たのかもしれない…和也って言ってたし…その辺、あのおじいさんたちに聞いてみたかったな…」
二人で何度もあのCDを聴いた。
中古屋を回って、avidのCDを探しまわった。
全部揃えて、翔って人のラップも聴いた。
「凄い…声までそっくりだね…」
俺たちはavidのCDをもう1セット探して、和也に渡した。
和也は不思議がってたけど、その次の週、さっそくフロアで流してた。
翔がえらく気に入ったみたくて、何回もそれは流れてきた。
俺たちは飽きることなく、その音の渦に身を任せていた。
もしも叶うなら…
もう一度あのじいさん達に会ってみたい…
時々智と、そう話すことがある。
遠い過去の話を…聴いてみたい気がした。
「智…」
「ん…?」
「これ…」
「なに?」
「やる」
「ん?」
ぽとりと智の手に、落とした。
「え…?」
それはシルバーのリング。
じいさんたちも、お揃いのリングしてたんだよね…
「潤…」
「ちゃんと、毎日つけろよ?」
「うん…ありがとう…」
嬉しそうにそれを指にはめて、智はニッコリ微笑んだ。
その笑顔をいつまでも見つめていたいと…
そう、じいさんになってもね。
そう、思った。
【END】