第8章 tower
俺と翔は美樹さんに連れられて、小さなビルの一室に居た。
「すいません…二宮さん…」
美樹さんがコーヒーを出してくれた。
「いえ…なにも謝ることないですよ…」
まだ、事態を上手く飲み込めていなかった。
「大野さんも、追ってこちらに連れてきますから…」
「はい…」
翔は泣きつかれて眠ってしまった。
ソファで俺の膝に頭を乗せて、身体を丸めている。
美樹さんは翔にブランケットを掛けてくれた。
「潤は…」
「頭は打っていなかったと思うのですが…出血が…」
言いにくそうに美樹さんは黙りこんだ。
翔の髪に指を絡ませて、気を落ちつけた。
無心に撫でていると、美樹さんはパソコンで何やらしている。
キーを打つ音を遠くで聞きながら、潤の血の色を思い出していた。
赤い…赤い血…
あの白いワンボックスカーはそのまま走り去った。
あの時、美穂さんも由美さんも慌ててあそこから俺たちを逃がそうとしていた。
ということは、あの車は俺たちを狙っていたことは間違いない。
そして潤は…
完全に巻き添えを食ったのだ。
ぎりっと奥歯を噛みしめる。
潤に何かあったら、償っても償いきれないと思った。