第7章 Kozmic Blues
ガオが立ちあがった。
レコーディングブースに走りこんだ。
ピアノブースの扉を開けると、そのまま立ち尽くした。
俺も後に続いて走った。
和也が弾いていたのは、「この素晴らしき世界」。
ルイ・アームストロングの名曲。
「カズナリ、もう一回弾いてみな?」
「あーい」
和也がまた鍵盤に向かう。
その音色は澄んでいて。
どこまでも透明な世界への糸を紡ぐようで。
ルイの特徴のあるダミ声なんか思い起こさせない。
違う曲に聞こえた。
それもそのはず、たまになにか違う音符が混じる。
「カズナリ、なんで楽譜通り弾かないのさ」
ガオが聞くと、和也は首をひねった。
「わかりませぇん」
和也は自由に、感じたまま弾いているようだった。
それに楽譜なんか、見てないのだ。
「ピアノ、習ってたの?和也」
「ない」
ピアノを弾きながら、短く答えた。
音楽の流れに身を任せるように、和也の身体が揺れる。
潤はひたすら呆然としてた。
「こいつ、凄いんじゃないの…?ガオ」
「うん…凄い」
ガオが言った途端、俺と潤は目を合わせた。
ガオは何かを考えたまま、黙りこんでしまった。