第20章 THE ROSE
「それまでは…なんでこんな人生なんだと人を恨んだこともあるけどね…ここに来てからは、本当に穏やかに過ごすことができて…本当に幸運だったと思う」
またコーヒーを飲むと、にっこりと俺をみて笑う。
暫くお互いに黙ってコーヒーを飲んだ。
先程から流れている曲が、妙に風間の語りと合っていて、なんだか聴き入ってしまった。
「…この曲…なんて曲?」
「ああ…サマータイムって曲だ。元々はジャズの曲なんだが、ジャニス・ジョプリンがブルース・ロック風にして歌ったものなんだ」
「…ガオさんに似てる…」
「え?」
「あ、いや、なんとなく…そう思って…」
風間は暫くレコードの音に聴き入っていた。
「そうか…?もっとガオは高くて澄んだ声だったと思うがな…」
「俺には…似て聞こえる…」
「へえ…面白いね」
二人でまた曲に耳を傾けた。
「…そんなに…」
「え?」
「avidの曲を聴き込んでたんだ?」
「…まあ、流行ってたしね。当時は…」
少し、嘘をついた。
「ふうん…」
風間に心の奥底を覗かれることは避けたかった。
なにしろあれからずっと秘めてきたことだから…
「俺は…ジャニスよりも、こっちのほうが似てると思う」