第20章 THE ROSE
「…懐かしいねぇ…」
その瞳は、どこか遠くを見つめた。
「白根は入山禁止になっちまったからなあ…」
「え?白根?」
「ああ…小原さん知らなかったか」
いたずらっこのように笑った。
「小出さんには話してたから、てっきり小原さんも知ってるのかと思ってた」
そう言ってメガネを上げた。
「ガオは、白根に眠ってる」
「え…?」
「だから、墓にはガオはいないんだ」
「眠ってるって…」
「…まあ、それ以上は…」
曖昧に笑って、風間もコーヒーを飲んだ。
店内には、しゃがれた声の女性シンガーのレコードが流れていて。
哀愁を帯びた旋律が、なんだか時間の流れを余計に感じさせた。
「ずっと…ここで商売を?」
「そうだね。翔が死んでから足を洗って…それからはここの跡継ぎっていうかね…」
「なんで…」
そう問うと、風間は今までのことを語ってくれた。
「よく…無事に足を洗えたね…」
「まあ…松岡組長のお陰でね…ほんと、あの人には世話になった…」
「いくら正式な構成員じゃなかったとはいえ…制裁なしなんて…」
「ああ…だから、俺はラッキーだったんだと思う」
また、目を細めて笑った。