第20章 THE ROSE
笑った顔は、何の屈託もなく…
しあわせそうに見えた。
「奥さんは…?」
そう見えたから、てっきり家族が居るんだと思った。
「独身だよ。小原さんは?」
「俺も…独身」
「そうか…あんたなら、俺と違って女なんてよりどりみどりだと思ったんだがね…」
「いやいや…逆に自分より綺麗だからって、近寄ってこなかったよ。ぼやぼやしてたらこんな年になっちまった」
「ははっ…言うねえ」
コーヒーのいい香りが漂って来る頃には、あの頃に戻ったような雰囲気になっていた。
本当に…随分柔らかくなった。
「どうぞ」
カウンターの上にソーサーに載せられたコーヒーカップを出してくれた。
「じゃあ、頂きます…」
コーヒーは良い豆を使っているらしく、美味しい。
「旨い」
「商売が道楽みたいなもんだから、コーヒーも一時期凄く凝ってね…今は、それほど高い豆は使ってないんだけど、旨いだろ?」
なんでもニカラグアの豆を近所のコーヒー店で買っているそうだ。
「…あの頃には、こんな生活してるなんて考えられなかったな…」
「風間さんは…」
「風間でいいよ。あの頃も呼び捨てだったろ?」
「ああ…つい…ガオ、さんにつられて…」
「ああ…」
メガネの奥の瞳が、細くなった。