第19章 Get It While You Can
たまに、ふらりと松岡組長は店に寄っていった。
「…なんで俺をここに…?」
そう聴いてみても、いつも曖昧にはぐらかされた。
でも数年経って、老夫婦の旦那さんが亡くなったとき、一度だけポロリと漏らした。
「俺は…ここの夫婦に拾われたんだよ」
松岡組長は、松岡組の前組長の養子だというのは聞いていた。
「組長も…親が居なかったんですか…?」
「ああ…おまえと、一緒だよ」
なにか、分かった気がした
組長は…同じ境遇の俺を、ヤクザにはしたくなかったんだろう…
そして、ここの老夫婦に恩返しもできる。
「だから俺をここに…」
「は?バーカ…」
照れたように俺を一発殴ると、そのまま斎場を出ていった。
月日は、流れていく…
あれから、時は平穏に流れた。
老夫婦の奥さんが、旦那さんの後を追うように亡くなると、俺は一人ぼっちになった。
だけど俺は、そこに居続けた。
ずっとレコードショップの主人をやってた。
時代が流れて、レコードショップだけではやっていけず、中古品も扱うようになった。
神田の古書店街だから、ちょうどいいだろう。
そういう安易な気持ちで始めたのに、これが意外と当たった。
日がな一日、古いレコードを求めて若者が足繁く通う店になった。