第19章 Get It While You Can
「わかった」
松岡組長は目を閉じた。
「じゃあな、俊…おめえに制裁しなきゃならねえ。いいな?」
裏切り者には死を…
どこの世界でもそうだろう。
最近は殺すまでしないけど、足抜けするとなると半殺しだ。
その上で、一生を監視下に置かれて金を搾り取られることだってある。
逃げ切れるものじゃない。
ここまで望んでしてきたことが、俺を殺してくれる…
なんて都合がいいのだろうかと、笑いそうになった。
突然、ゴチンと頭に衝撃が来た。
「痛ってー…」
「おら、俺からの制裁だ受け取っとけ」
松岡組長のゲンコツだった。
「…は…?」
「俊よお…おめえはヤクザになるにゃ、優しすぎる…」
「そんな…」
「だからよ、諦めてくれてホッとした」
「組長…」
松岡組長はふっと笑うと立ち上がった。
「俺の恩人が、跡継ぎ探してんだがよ。おまえ、そこ手伝ってみねえ?」
古い、レコードショップだった。
神田の古本街の片隅にある、小さなレコードショップ。
「まあまあ…こんな若い人が来てくれるなんてねえ…」
「いいのかい?こんなところで…」
その老夫婦には、子供がなかった。
だから、そのレコードショップは老夫婦が死んだら消えるところだった。
―――ここの跡を継いで、この夫婦を看取れ
それが、松岡組長の制裁だった。