第16章 The Last Time
あるドアに差し掛かると、足を止めた。
中国人の男は怪訝な目で俺を見た。
「restroom?」
そう言うと、男は後ろを指差した。
「Thank you」
ウィンクすると、男はVIProomの番号を言って、去っていった。
トイレに行くふりをして、その部屋まで引き返した。
息をつくと、足が動かないと思って、一気に扉を開けた。
榎本が驚いて振り返った。
そのまま跳びかかって、首に手を掛けた。
「ぐっ…」
榎本の顔がどす黒く変化した。
「なんで…こんなことされるか、覚えあるよな…?」
何も答えられないのに。
延々としゃべっていた。
「和也は、お前のところに戻りたくないってよ。お前の名前きいただけで、怯えるよ…」
「なあ?苦しいか?ガオももっと苦しかっただろうな…お前なんかに殺されてさ…」
「わかるか…?なんでこんな苦しい思いしなきゃいけないか…」
突然、榎本の右手が俺の左手を掴んだ。
ぐいと引き剥がされる。
力が入らない。
右手で首を持ち直すが、全力で引き剥がされた。
「げほっ…げほっ…」
咳をしながら、部屋を転げまわって逃げる。
「往生際が悪いな…」
「やめろ…」
出てきた声は弱々しくて。
「ふざけんな…ガオはもっと苦しかったんだって言っただろ…?お前、日本語わからねえのかよ…」
「ガオは…俺のこと、おもちゃにしてたんだぞ…そのくらい当然だろ…」
「…お前に…なんの価値があるんだ…?」
「は?」
「ガオはな…音楽を従える能力があった…日本の音楽を変えられる力があったんだ…お前には何があるんだ?」
「俺は…警察のっ…」
「だから。それが何の価値なんだよ?お前の価値じゃねえだろ?」
「俺は…俺は…」
べっと唾を吐いた。
「お前の価値なんて、ねえんだよ」
ガラスの灰皿が置いてあった。
手が汚れるのも構わず掴んだ。
振り上げた瞬間、ドアが開いた。