第16章 The Last Time
そっと和也の頭に頬を載せる。
「心配しなくていいから…」
和也は頷かない。
じっと身体を硬くして、俺の腕にすがりつくように掴まっていた。
「大丈夫だから…」
ふわふわの髪が、頬を揺らす。
和也のにおい…
目を閉じると、出会いの頃を思い出した。
あの頃、和也はよく笑った。
とても、楽しそうに。
今、少し大人びたとはいえ、笑うことなんてない。
和也から、笑顔を奪った。
和也から、先生を奪った。
先生から、和也を奪った。
和也から、俺を奪った。
俺から、和也を奪った。
皆から、ガオを奪った。
もう、これ以上奪わせない。
あいつが俺たちに与えたものは、苦痛と侑李。
侑李…ごめんな…
ポケットからピルケースを取り出して、二粒噛んだ。
最近、ぼーっとできないから、量が増えた。
でも、なんとなく安心するからやめられない。
なんの味もしない錠剤なのにね。
ふっと笑みが漏れる。
小原が後ろを振り返って、怪訝な顔をする。
「なにか…楽しいことあったの…?」
「いいや…別に?」
小原は溜息をつくと、前に向き直った。
今夜、榎本に会いに行く。