第15章 Flower in the Sun
風間が離してくれないから、その日は風間の事務所に泊まった。
別に風間に抱かれるとかじゃないけど、一晩中風間は私を抱きしめていた。
時々、アタシを呼ぶ声は、小さいころ施設に居た時のままで…
「智津ちゃん…」
寝ぼけながら子供みたいな声を出した。
「なんだよ…バカ…」
小さくつぶやくけど、眠りに落ちた俊には聴こえなかった。
泣くなよ…俊…
俊介…
こんなこと、なんでもない。
なんでもないんだ。
あざみ園の看板が見える。
私達が居た施設。
建物の前の小さな広場の片隅で、俊介が泣いてる。
小さな膝を抱えて、声を押し殺して。
「俊…ほら、立てよ」
俊介はアタシのスカートをぎゅっと掴んだ。
「智津ちゃん…血でてる…」
足を伝って、血が足首まで滴ってた。
「こんなの、なんでもない。さ、いくよ?」
「智津ちゃん…」
俊介の手を取って、建物まで歩き出した。
こんなことがあっても、アタシたちの帰れるところはここしかなくて…
玄関の横の窓から、アイツが私達を眺めてる。
ヤニで黄色い歯が見える。
「よう…智津…またヤラせろや」
「死ねよジジイ」
俊介の手が、ビクリと震えた。