第13章 Move Over
俺と和也が揃って退院するまで、誰も面会にこなかった。
多分、気を使ってくれたんだろう。
俺の家族以外、こなかった。
美穂さんが身の回りの世話を焼いてくれた。
退院するときも、裏口からひっそりと出してくれた。
どこに低俗な雑誌の記者がいるとも限らない。
そっと病院を出て、親父の車に乗ると、安心した。
「翔さん、ほんとに世田谷行くの…?」
美穂さんが運転席から聞く。
親父は仕事だから来なかった。
「ああ…頼むよ。美穂さん」
和也を連れて行きたかった。
あの家に居る時が、一番幸せだった。
俺の手をぎゅっと握る、和也に思い出して欲しかった。
陰が、浮かぶから。
「和也、俺達のお家帰ろうね…」
「はぁい…」
美穂さんはそれからずっとしゃべりっぱなしで。
和也もにこにこ笑ってた。
「じゃあ、翔さん。明日ご飯作りにくるから」
「わかった…ありがとうね。美穂さん」
俺たちを降ろすと、美穂さんは帰っていった。
エントランスに足を踏み入れる。
「和也…」
「はぁい」
「ずっと…いっしょだからな…」
「…いっしょ…する…」
ぎゅっと握った手に力が入った。