第13章 Move Over
次の日から、翔の捜査が始まった。
日本では報道されないよう、翔のお父さんが配慮した。
そして翔のお父さんが、エジプトにやってくることになった。
エジプト政府に直接呼びかけるためだ。
大々的な捜査網を敷いて、テロ組織に誘拐されていないかも調べなければならない。
とっくに犯行声明が出ていい頃なのに出ていないから、誘拐ではないのだろうか。
日本政府も動かしたい…
だが、ここで日本を騒がせたら、またあの殺された邦人と同じ運命を辿るかもしれない。
俺と智は、日本大使館へ閉じ込められた。
翼はエジプトの国籍を取っているから、大使館には入れなかった。
翼もそれは望んだことで。
「俺は、エジプトの国の人間として、翔を探すから…頼りにならないかもしれないけど…待っててよ」
そう言って、俺達と別れた。
淋しげな笑顔だった。
「よろしくな、翼」
俺たちは固い握手を交わした。
いつか、平和になったら。
夜通し酒を飲もう。
そう約束した。
誘拐された、という情報は今のところ入っていない。
だけど、捕まった兵士のなかに、日本人と会ったという男が居た。
そいつは、その日本人を犯したのだと。
自慢気に言ったというのだ。