第13章 Move Over
翼の車は、カイロ市内の一番大きい病院へと向かっていた。
まだ信じられない。
震える俺の手を、智がずっと握っている。
俺には今、この体温しか頼るものがなくて。
ぎゅっと手を握り返した。
「潤…辛かったら、この手、ずっと握ってろ…」
日本に居る時じゃ、考えられないほど男らしくて。
つい、寄り掛かる。
「大丈夫。俺がいるから…」
寄りかかった頭を引き寄せられて胸に埋め込まれた。
「辛い時は、一緒だから。潤」
それが何を意味するのか、わからなかった。
でも、智が俺の気持ちに寄り添ってくれてるのはわかった。
病院につくと、翼の後ろについて走った。
そこに着くと、スーツをきた大使館の人も来ていた。
いつも退去勧告をしにきてくれる人だ。
その人が、俺の顔をみた。
「違います!」
叫ぶように言った。
「櫻井さんではありませんでした!」
後から聞いたら、相当な混乱で。
病院に居たご遺体は、東アジア人ではあるけど、日本人ではなかったそうだ。
遺体が見つかった場所には、現地の人も含めて多数が見つかったところで…
地元警察と、軍まで出てきてその現場の復旧にあたっていたほどだったそうだ。
遺体が翔じゃなかったことに胸をなでおろしたが…
新たな問題が発生した。
いや、もっと質が悪い。
行方不明。
生きているか、死んでいるかすらわからない。
翔。
どこに行った。