第11章 Tell Mama
そんな美穂さんと親父を見てたら、軽蔑する気持ちも消えていって。
ただ、俺が大学に行かなかったわだかまりだけがいつまでも残っていた。
だから専ら連絡をくれるのは、母さんから、今度は美穂さんに変わっただけだった。
家は弟が継ぐし、弟は官僚を目指して大学進学している。
だから、俺のことなんて親父は目に入ってなかったはずなのに。
「…どういう風の吹き回しなの?」
探りを入れてみるが、美穂さんはどこ吹く風、みたいな顔してる。
「まあ、とにかくお父様と話してね」
いたずらっぽく笑うと、キッチンに消えていった。
「あ、お仏壇に手を合わせてね」
キッチンから声だけ聞こえた。
「うん。わかってる」
答えて、仏間に向かった。
ふすまを開けて中に入ると、線香の香りが漂ってる。
きれいに掃除してある仏壇を見て、美穂さんには頭の下がる思いがした。
静かに手を合わせていると、いろいろなことが頭に去来した。
かあさん…ごめん。
先生…ごめん。
俺、あなた達に何もしてあげられなかった…
少し、頭痛がした。
「翔さん、お茶がはいったわよ」
「ありがとう。今行きます」
仏壇をもう一度眺め、母さんの写真に微笑む。
またくるよ。母さん。