第11章 Tell Mama
「翔?これ、どこにしまうの?」
潤が引っ越しの手伝いに来てくれていた。
「あ、うん。クローゼットの中で」
「いいの…?和也のでしょ?」
手には、和也のカバンがあった。
「うん…出しておくと、ずっと見ちゃうんだ…」
「そっか…わかった」
avidが顔を出して、世田谷の家に住んでいることが難しくなって、仮住まいに引っ越すことにした。
ファンが押しかけてきて、大変なことになるところだったからだ。
世田谷の家は、和也の事件が報道されたからファンにバレている。
港区の芸能人がたくさん住む一角に、小さな部屋を借りた。
世田谷の部屋はそのままにしておく。
和也がいつでも帰ってこられるように。
俺達のアルバムは、あっという間にヒットチャート1位を獲った。
あれよあれよという間に、音楽番組にひっぱりだこになって、俺はクタクタだった。
早くカイロに行きたいのに、借金を返さないといけないから、それもできなかった。
とにかく日本で、このアルバムを売り切ろう。
それだけを考えて日々過ごしていた。
引っ越しの荷物は少なかったから、片付けはすぐ終わった。
「翔、ほんとにいいの…?」
「うん?」
「世田谷から離れて…」
「ああ…しょうがないからな…」
コーヒーを啜った。