第11章 Tell Mama
小原の第一回目の報告は、和也がいなくなった当時の状況についてだった。
大体がニュースで流れていた通りで、後は病院などの記録、東アジア人の記録などを集めたものだった。
その中に偽造パスポートの名前に一致するものはなかった。
そもそも、あの政情の変化のなか、日本人が死んだというニュースもなかったわけだし。
東アジア人にその調査を絞っていっている。
「和也くんの特徴に合致する死体はありません」
ただし、あの混乱の中で人知れず死んでいった可能性もある。
和也は自閉症で。
パニックになると何をするかわからなくなって。
泣いて…叫んで…
ぎゅっと手を握っていないと、泣きそうになる。
やっと肉のついてきた手は、でもまだ細くて。
力の入らない拳を何度も握ったり、解いたりしていた。
「櫻井さん…」
小原に呼びかけられて顔を上げた。
「これからですからね…」
「はい…」
小原から、調査結果を報告する書類を受け取って、家に帰った。
やっと退院して帰ってきた我が家は、がらんどう。
雅紀は家を出て行っていた。
ちゃんと、治療するからと約束して。
出て行った。