第10章 Cry Baby
怖くて、言葉にできなかった。
侑李を見た瞬間、悟った。
榎本は和也を失ったから、この子を身代わりにしたのだと。
和也は、もうこの世にいないから…
だから榎本は死にたいんだ。
だって…俺も…
「和也は…」
ガオが顔を上げた。
「わからないんだ…翔…」
「そんな…別にいいよ…嘘つかなくて…」
ガオの目が揺れる。
「どんな結果であれ、俺は受け止めるから…」
嘘をついた。
小さな嘘。
いや…大きな嘘。
「ほんとなんだ…本当にわからないんだ…」
ガオは顔を手で覆った。
「榎本に自白剤を使って、和也の行方を吐かせたんだ…」
「え…?」
「風間が用意してくれた」
手を下げると、ガオの顔はまた涙に濡れていた。
「2年前、榎本と和也はカイロに居たんだ…」
「え…?カイロ…」
「巻き込まれたんだよ…あのクーデターに…」
「ま、さか…」
「榎本はあの混乱の中、和也とはぐれた。はぐれた後、デモ隊の強制排除が始まって…」
和也は、もう戻ってこなかった…
「榎本は必死で和也の行方を探した。でも…見つからなかったんだ…」
死体でもいいと、病院を何軒も回ったけど、結局見つからなくて…
1年、エジプトを彷徨ったと…
手の汗が、気持ち悪い。