第10章 Cry Baby
「風間から、上海に和也と名乗っている知恵遅れの子がいるって情報が入ったんだ…」
風間とは、ガオと同じ施設に居た子で、今でも付き合いがあるから、俺達も知っている。
たしかヤクザになってるはずで、ガオは風間からも情報を取っていたんだ…
「ガオはね、榎本が和也に飽きたら、売るって考えたんだ。だから、中国の人身売買のルートの情報を風間から買ってたんだ」
ちょっとシニカルな笑みを浮かべた。
「榎本が和也に飽きることなんて、なかった」
そういうと、俺をまっすぐ見た。
「翔と、一緒だね…」
俺は目を逸らした。
「蛇頭の人たちに、その子がいるって所に連れてかれて、行ってみたら居たのはこの子と、榎本だった…」
「蛇頭…」
「風間の上の連中が取引あるから…」
「結局、金を積んで連れて帰ってきたよ」
「…榎本は…?」
「榎本は…」
「そっからは私が話す」
ガオが俺のベッドの傍に歩んでくる。
「榎本は、生かしてある。会いたい?」
「え…?」
「アイツは死にたがってる。だから、無理やり生かしてあるよ」
「なんで…死にたがってる…?」
「和也が…」
ガオは黙った。
俺は息を吸った。
一気に吐き出すと、つぶやいた。
「和也が、死んだから?」