第10章 Cry Baby
なんで榎本の父親が無抵抗になったかは、わからない。
でも、目撃者によるともうその時には意識がなかったんではないかということだった。
榎本の母親は、その時に倒れて、今なお病院にいる。
精神病院に。
「先生…」
そのまま俺は絶句した。
先生は家族のために、籍まで抜いて塁が及ばないようにしたらしいけど…
結局マスコミがかぎつけて、ご家族はガオや小出社長の手配で、地方に引っ越したそうだ。
仕事や学業を全て捨てての移住になったということだった。
殺人犯を身内に抱えるとはこういうことだ。
今までの人生を全て捨てなければならない瞬間がくる。
俺もそれをずっと考えていたから、櫻井の家になるべく塁の及ばないようにいろいろ考えていたから…
先生…でも、それでもやったんだね…
命、尽きるまで和也のこと…
ふと智に目をやると、侑李を腕に抱いている。
侑李は智に抱きついて、寝息をたてている。
「ねぇ…その子…榎本と一緒にいたって言ってたよね…」
「え、うん」
智が言いにくそうに答える。
「…じゃあ、その先の話、聞かせてよ」
「翔…」
「じゃあ、俺が話す。いいね?ガオ」
雅紀がガオに顔を向ける。
「うん…」
ガオがうつむいた。
俺は、覚悟を決めた。