第10章 Cry Baby
その後のことは、報道されたことのつなぎ合わせとか、こっそり入手した警察の調書からの話をしてくれた。
俺が後ろに倒れて意識を失うと、先生は俺の傷にハンカチを当てて、その上から止血をしっかりとした。
そのあと、俺の脈と呼吸を確認して、改めて包丁を握った。
回りにいた人は、その先生の気迫に誰も動けなかったそうだ。
榎本の母親は腰が抜けて、玄関で座り込んでいた。
父親は、先生にこう語りかけたそうだ。
”なんの恨みがあって”
先生はその一言で、幽鬼のような表情になった。
”二宮和也くんをかえしてください”
そういうと、包丁を振り上げた。
”待ってくれ。径はもう榎本とは関係ない”
父親は手で先生を制した。
”本当だ、今はどこにいるのかすらわからん”
”じゃあ、もうあんたは用なしね”
言いながら、先生が歩み寄る。
”待ってくれ!俺はもうガンで余命が短いんだ。天寿を全うさせてくれ!”
”私もよ”
先生はにっこりと最期に、笑ったそうだ。
”あんたが息子への愛の注ぎ方を間違えたから…全ての発端はあんたなのよ…”
”…死んで和也くんに謝ってよ…”
”あんたの汚い命なんて、私が終わらせてあげる”
先生はそう言いながら、榎本の父親の上に馬乗りになった。
父親は、抵抗しなかったそうだ。
そのまま、何度も何度もメッタ刺しになって、息絶えた。
先生は息絶えてるのを確認したら、榎本の母親に向かって叫んだ。
”あんたの息子のせいで、狂った人生の責任を、あんたがとりなさい”
そう言い放って、自分の頸動脈を掻き切ったそうだ…