第9章 Farewell Song
「言えよ…和也どこにいるんだよ」
榎本はぎゅっと口を引き結んだ。
「言えって。大人しく聞いてるうちに」
榎本が私の顔をみた。
驚いたような顔をしたかと思うと、そのまま後ろにずりずり下がっていった。
「けいちゃーん…」
ゆうりが榎本に抱きつく。
榎本はゆうりを抱きしめた。
「和也…」
「けいちゃーん…」
さっきから、悪い予感しかしない。
なんでこの子に和也と名付けたのか。
「答えろよ。榎本」
「あ…和也…」
ゆうりは苦しそうにもがいた。
「けいちゃんくるしい…」
「榎本!答えろ!」
傍らに転がってたビンを掴んで、壁に向かってぶん投げた。
苛立っていた。
この甘ったるい匂いと、嫌な予感。
翔…
翔…助けて
「和也は…」
榎本が答えようとした瞬間、雅紀がゆうりを抱え上げた。
「和也…」
すがるようにゆうりに手を伸ばす榎本の顔面を、雅紀は蹴りあげた。
「てめぇ…どこまで…」
「あ…和也…いくな…いくなよぉ…」
榎本は蹲って泣いた。
私は床に崩れ落ちた。
雅紀はゆうりを抱えたまま動かない。
風間が私の肩に手を置いた。
「ガオ、とにかく場所移そう」